― 科学が明らかにし始めた木のリラックス効果と、長く使う楽しみ ―
私たちは、木のある空間にどこか温かさや安らぎを感じます。
木目の美しさ、手で触れたときの感触、使い込むほどに変化する表情。木の家具には、見た目の美しさだけではない魅力があります。
では、木に触れたり、木のある空間で過ごしたりすることは、私たちの心や身体にどのような影響を与えるのでしょうか。
近年、こうした木の心地よさを、脳活動や自律神経の変化から調べる研究が進んでいます。
今回は、木材に関する研究と、私自身が無垢材の家具を使い続けて感じていることを交えながら、木のある暮らしの魅力をご紹介します。
木に触れると、身体はリラックスする?
木の家具を触ったとき、ほっとするような感覚を覚えたことはありませんか。
その感覚を科学的に調べた研究があります。
千葉大学の宮崎良文先生、池井晴美先生らによる2017年の研究では、18人の女子大学生を対象に、木材と大理石、タイル、ステンレスに手のひらで90秒間触れたときの反応を比較しました。
その結果、無塗装のホワイトオークに触れたときには、ほかの素材に比べて前頭前野の活動が鎮静化し、副交感神経の活動が高まる反応が確認されました。
副交感神経は、身体が休息するときに働く自律神経の一つです。
つまり、木に触れることは、私たちが感じる心地よさだけでなく、身体のリラックス反応にも関係している可能性があるのです。
もちろん、少人数で短時間の実験なので、すべての人や木材に同じ効果があるとまではいえません。
それでも、素材の違いによって身体の反応が変わるという結果は、住まいの素材選びを考えるうえで興味深いものです。
木の表面仕上げによっても違いがある
木材は、同じ樹種でも仕上げ方によって手触りが変わります。
無塗装、オイル仕上げ、ウレタン塗装など、家具やフローリングにはさまざまな仕上げがあります。
2017年に発表された別の研究では、ホワイトオークの表面仕上げを変えて、手で触れたときの生理反応を比較しています。
無塗装材では、一部の塗装仕上げと比べて、副交感神経活動の増加などが確認されました。また、オイル仕上げ材でも、鏡面仕上げ材と比較して前頭前野活動や心拍数に違いが見られました。
一方、「快適さ」や「リラックス感」についての主観的な評価では、仕上げの違いによる明確な差は確認されませんでした。
木の種類だけでなく、表面をどう仕上げるかも、触れたときの身体の反応に関係する可能性があるということです。
家具を選ぶときには、見た目だけでなく、ぜひ実際に手を置いてみてください。
木肌の感触や温もりを確かめながら、自分が心地よいと感じるかどうかを大切にしていただきたいと思います。
木は、眺めるだけでも心地よい?
木の効果を考えるとき、触覚だけでなく視覚も見逃せません。
木材を使った室内空間の研究では、木が見える割合や空間のデザインによって、血圧や脈拍などの反応が異なることが報告されています。
ある実験では、室内に見える木材の割合が約30%の空間で、生理的なリラックスを示す反応が見られました。
一方、木材の割合を増やした空間では、脈拍が上昇する場合もありました。
これは「木を多く使えば使うほど落ち着く」という単純な話ではないことを示しています。
木材の量だけでなく、どこに、どのように取り入れるか。空間全体のバランスも大切なのです。
なお、この30%は特定の実験条件で得られた結果であり、住宅設計における最適な木材使用率を示す基準ではありません。
私が無垢材のダイニングテーブルを使い続ける理由
わが家では、マルニ木工の「まるた」シリーズの無垢材ダイニングテーブルを使っています。
長さは2,000mm。
家族で食事をしたり、子どもたちが勉強したり。コロナ禍には、この長いテーブルを使って家族で卓球をしたこともありました。
毎日の暮らしの中心にある家具だからこそ、当然、傷や汚れもつきます。
私は年に2回ほど、リボスのオイルを使ってお手入れをしています。
オイル仕上げの無垢材は、表面の状態や傷の程度によっては、やすりで整えてから適切に再塗装することで、美しさを取り戻すことができます。
新品の状態をずっと保つのではなく、傷んだら手をかける。
そうやって使い続けられることに、私は魅力を感じています。
傷がつかないことだけが、家具の価値ではない。
傷がついても手入れをしながら、家族の時間とともに使い続けられる。
そんな家具が家にあることは、私にとって一つの安心感につながっています。
※研磨やオイルの塗り直しは、樹種や塗装仕様によって適切な方法が異なります。実施する際は、家具メーカーや使用する塗料の取扱説明を確認してください。
椅子も、手入れしながら長く使う
ダイニングチェアには、ビーチ材のYチェアを使っています。
仕上げはソープフィニッシュ。
ソープフィニッシュは、木の自然な質感を生かした仕上げ方法の一つです。石けんを使ってお手入れできることも特徴です。
実は、私はまだそのお手入れを試したことがありません。
けれど、汚れたら適切な方法で手入れできると知っているだけでも、家具との付き合い方が変わります。
家具は、使うためにあるもの。
汚したくないから触らない、傷つけたくないから使わない、というのでは少しもったいない気がします。
使いながら、必要なときに手をかける。
そうした暮らし方にも、天然木の家具の良さがあると思います。
無垢材でなければ、心地よい空間はつくれない?
ここまで木材の魅力をご紹介しましたが、住まいのすべてを無垢材にする必要はありません。
現在のフローリングには、無垢材のほかに、挽板、突板、木目を再現した化粧シートなど、さまざまな選択肢があります。
特に近年のシートフローリングは、木目の表現や表面性能が進化しています。傷や汚れへの強さ、お手入れのしやすさなど、暮らしの中で実用的なメリットを持つ製品も少なくありません。
天然木には天然木の魅力があり、シート材にはシート材の良さがあります。
大切なのは、それぞれの特徴を理解して選ぶこと。
例えば、床はお手入れしやすい素材にして、毎日手を触れるダイニングテーブルには天然木を選ぶ、という方法もあります。
木の心地よさを取り入れるために、住まいを大きく変える必要はないのです。
木のある暮らしを、身近なところから
木のある暮らしを始めるなら、まずは日常的に目にしたり、手で触れたりする場所を考えてみてはいかがでしょうか。
ダイニングテーブル、椅子、デスク、サイドテーブル。
暮らしの中で何度も触れる家具だからこそ、素材の質感が日々の心地よさにつながっていきます。
木材に関する研究はまだ発展途上ですが、木に触れることで生理的なリラックス反応が見られることなど、興味深い知見が蓄積されつつあります。
そして、木の家具の魅力は、科学的な効果だけではありません。
手入れをしながら長く使えること。時間とともに表情が変わること。家族の思い出が積み重なっていくこと。
良いものを選び、大切に使い続ける。
そんな暮らしの積み重ねもまた、心地よい住まいをつくる大切な要素なのだと思います。
参考文献
- Ikei, H., Song, C., & Miyazaki, Y. (2017). Physiological Effects of Touching Wood. International Journal of Environmental Research and Public Health, 14(7), 801. https://doi.org/10.3390/ijerph14070801
- Ikei, H., Song, C., & Miyazaki, Y. (2017). Physiological Effects of Touching Coated Wood. International Journal of Environmental Research and Public Health, 14(7), 773. https://doi.org/10.3390/ijerph14070773
- Ikei, H., Song, C., & Miyazaki, Y. (2017). Physiological effects of wood on humans: a review. Journal of Wood Science, 63, 1–23. https://doi.org/10.1007/s10086-016-1597-9
- 千葉大学 CHIBADAI NEXT(2026年9月18日)「木製会議テーブルに触れると脳がリラックス」 https://www.cn.chiba-u.jp/news/20260918_wood/

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